福岡の不動産鑑定士不動産オトン|福岡の地価と将来性
福岡の不動産鑑定士、㈱不動産オトンコンサルティング福岡の片江宏典です。福岡市南区の生まれで、大阪府吹田市で育ちました。九州の玄関口でもある福岡の地価と将来性について、それぞれの街の性格・役割を出身地である大阪及び関西の各所との対比しながら紹介させていただきます。
目次
1.福岡の地価
2.福岡市中心部(天神地区)の性格
3.福岡市中心部(博多地区)の性格
4.福岡市中心部(中洲地区)の性格
5.歴史・観光地区(太宰府、宗像)
6.リゾート地区(糸島、福津、志賀島、能古島)
7.福岡の将来性
8.まとめ
1.福岡の地価
まずは地価の指標としての地価公示を見ていきます。令和4年度の地価公示における全国の商業地の対前年上昇率のランキングにおいては、トップ10のうち7ポイントが福岡市内となっています(その他3ポイントは近年開発が進み元々価格が低かった北海道)。一方、下落率については、ワースト10のうち8ポイントが大阪市内です。個人的にはコロナ禍の激動の時代において、このような状況となったことはとても象徴的だと見ています。大阪の先生もたくさんおられるレポコラですのでお断りしておきますが、これは都市として大阪が悪くて福岡が良いという単純な話ではありません。人口的にも大阪府は約880万人と、福岡県の約510万人の約1.7倍と都市としての規模が違います。大阪の商業地における地価の変動要因としては、これまでにすでに大きく発展してきていたこと、観光地としての性格が強くインバウンド減の影響を受けやすい地域が多いことが挙げられます。対して福岡がなぜ今地価の上昇が続いているのか、主要なエリアを紹介した上で分析してきます。
令和4年地価公示~全国
2.福岡市中心部(天神地区)の性格
ここは福岡県における商業の中心で、大阪で言うところの梅田です。地元の人々に長年愛される岩田屋や大丸、三越等の百貨店や商業ビルが建ち並び、オフィスビルも多く集積しています。天神地下街という日本最長の地下街が南北に通っており、地下街内部にはアパレル系を中心とした各種テナントが入居し、福岡市営地下鉄の天神駅と天神南駅、西鉄福岡駅をつないでいます。また、新天町という約76年の歴史を持つ商店街もあり、現在は再開発に向けての協議が進められています。2015年より福岡市の主導で“天神ビッグバン”という大規模な再開発プロジェクトが進行中で、2024年までの10年間でのビル30棟の建て替えが予定されていましたが、現在建築確認申請数で52棟、竣工棟数で43棟と予想を超える実績となっています。
3.福岡市中心部(博多地区)の性格
このエリアは新大阪と難波が合わさったような街です。新幹線の発着駅である博多駅が存しており、JR鹿児島本線と福岡市営地下鉄空港線が乗り入れています。2011年の九州新幹線(博多-鹿児島間)全線開通以来、急速に発展しており、駅付近に阪急百貨店や東急ハンズ等を含む商業ビルと事務所ビルが集積しています。近年は“博多コネクティッド”という名称で再開発が行われており、現在建築確認申請数で15棟、竣工棟数で7棟の実績となっています。
4.福岡市中心部(中洲地区)の性格
ここは北新地と心斎橋を合わせたような街です。中洲は九州一の歓楽街として有名で、数多くの飲食ビルが建ち並んでいます。コロナ禍直後は飲食系テナントの撤退が相次ぎ、地価にも影響がありましたが、令和4年地価公示ではまた上昇幅が拡大しています。加えて博多名物の屋台が多く建ち並び、観光客を中心ににぎわっています。130年以上の歴史を持つ川端通商店街には新旧130軒を超える店舗が存しており、複合商業施設であるキャナルシティ博多への人流を生み出しています。博多の2大祭りである、毎年5月の博多どんたく港まつり、7月の博多祇園山笠では県内外から多くの観光客を集め、中洲地区を中心に盛り上がります。
5.歴史・観光地区(太宰府、宗像)
これらのエリアは大阪を飛びだして京都、奈良のような悠久の歴史が感じられる街です。太宰府には太宰府天満宮があり、菅原道真公が祀られています。参道には各種お土産屋さんが建ち並び、名物の梅ヶ枝餅屋さんには行列ができることも多いです。新元号令和の典拠となった「新春の令月、気淑(うるわ)しく風和らぐ」の文言ゆかりの神社である坂本八幡宮もあり、豊満宮竈門神社は鬼滅の刃発祥の地ではと注目を集めています。宗像には宗像大社が存しており、日本各地に七千余ある宗像神社、厳島神社、および宗像三女神を祀る神社の総本社です。2017年には世界遺産にも登録されており、東アジアとの交易に関する祭祀の歴史が感じられます。
6.リゾート地区(糸島、福津、志賀島、能古島)
このあたりのエリアは海に面したリゾート地です。須磨、琵琶湖、淡路島のようなイメージでしょうか。特に糸島は海岸沿いにおしゃれな飲食店がたくさん出店しており、国内の音楽性の高いアーティストが集うSUNSET LIVEといった音楽フェスも開催されています。近年では、東京等からの移住者も増えています。
7.福岡の将来性
大まかにはこのような街で構成されている福岡都市圏ですが、その将来性の理由としては以下のような点があげられます。
①コンパクトシティ
福岡はコンパクトシティであるとよく言われます。前記の天神・博多・中洲エリアは約2kmの範囲に収まっており、大阪が新大阪から難波まで約8km程度あることと比較してもコンパクトです。さらに中心市街地の周辺には住宅街が広がっており、職住が近接しています。空港へのアクセスはアジア1位とされており、福岡空港は博多駅から地下鉄で約6分で、「国内線であれば福岡市内の自宅を1時間前に出れば間に合う」というような感覚もあります。観光地やリゾートも近く、福岡中心部から太宰府まで直線距離で約15km、宗像まで約30km、糸島・福津まで約20kmと自動車で1時間以内です。海だけでなく、登山やキャンプ等ができる山へも近いことから週末は自然に触れるレジャーに行くことが多いです。
②人口増加
現在日本全体としては人口減少に転じていますが、福岡市の人口は毎年約1万人ずつ増加しています。2016年には150万人を突破、2022年には約162万人となっており、2035年頃のピークまでまだまだ人口増の予測です。2010年から2017年までの人口増加率については、福岡市が7.1%で全国1位です。東京23区は5.8%、大阪市は1.8%となっています。
③教育機関の充実(九州中から若者が集まる、データ)
福岡市は多数の大学、短大が集まる教育都市でもあります。大学・短大・高専数は21校で、人口10万人あたりの大学等数で7.02校と全国1位となっています(2017年)。九州・四国・中国地方から大学入学を機に福岡へ来る若者が多く、若者人口(10代・20代)の割合も22.05%で全国1位となっています(平成27年国勢調査)。
④活発な投資資金の流入
このように若者の街である福岡ですが、これをすなわち将来性があると言い換えることも可能です。投資家目線でもワンルームマンションやオフィス等の賃貸需要について先行きが明るいという判断に繋がり、コロナ禍における金余りも影響して、投資資金が流入しています。投資利回りもNOIで相続税対策の場合で3%台、投資法人等の場合では4%台で取引されています。これが地価を押し上げる要因となっています。
⑤開業率・建設投資率1位(イノベーション、データ)
福岡市は国家戦略特区に指定されています。これは日本の経済活性化のために地域限定で規制や制度を改革し、その効果を検証するために指定される特別な区域のことで、福岡市を含め全国で10地域が指定されています。福岡市では「グローバル創業・雇用創出特区」として創業の支援と雇用の創出に取り組んでいます。これにより海外出身の方が起業するケースが増えており、若者の起業も増えています。私も今回起業するにあたって法人登記費用(15万円)が実質無料となりました。結果的に福岡市の2016年における開業率は7.5%で全国1位となっており、税収も7年連続で最高を更新しています(2020年、3444億円)。
⑥港町としての気質
福岡に来た当初は地元の皆さんが仲間に入れてくれるのかを心配していましたが、杞憂でした。福岡の人々には港町として発展してきた港町気質というものがあり、多様な人々を寛容に受け入れる土壌があります。クリエイティビティをもついわゆる「変人」というような人をどんどん受け入れて、街の価値に組み込んでいく力をいつも感じます。私個人としても福岡に住むにつれて「だれに会えるかが街である」と考えるようになりました。地方都市なので大企業の支店が集まる街でもありますが、赴任後そのまま居着いてしまう人も多い、面白い街です。
⑦家賃の安さ
築後20年程度のRC造ワンルームマンションで比較してみます。福岡市では近年若干上昇傾向にありますが、天神地区に隣接する大名エリアで2,200~2,500円/㎡程度です。大阪市は心斎橋で2,400~2,800円/㎡程度という印象で、月額賃料では福岡で5万円前後、大阪で6万円前後というイメージになるかと思います。以前地下鉄に乗っていたときに関西から福岡の友達に会いに来たと思われる若者が話していた会話が印象的でした。「福岡って家賃めちゃ安いな!中心部でも安ければ4万台で部屋見つかるやん。別荘的に一部屋借りようかな」。もちろん家賃設定には地価との兼ね合いがありますが、これも若者が集まる一つの要因です。
⑧食
これはかなり主観的な分析になりますが、福岡の食はコスパが高いです。特に海鮮系は海に近く漁港もあることから、どこで食べても新鮮で安いです。その他は名物のラーメンはもちろん、もつ鍋、焼き鳥、うどん屋さんも多いです。競争が激しく、たとえ美味しくても閉店することがあります。1軒とっておきのお店を紹介すると、福岡市中央区薬院3丁目にある「旬鮨季酒赤石」というお店は「寿司職人が作る創作生鮮居酒屋」というコンセプトで、バッテラ(サバの押し寿司)が日本一美味いと個人的には思っています。福岡に来られることがあればぜひ。
⑨FUKUOKA NEXT(天神ビッグバン、博多コネクティッド)
前述の国家戦略特区を利用した一番ダイナミックな動きとしては、天神ビッグバンと博多コネクティッドです。それぞれ福岡市の主導で行われている再開発プロジェクトで、いずれもコンセプトは容積率の緩和です。これらの再開発を総称して「FUKUOKA NEXT」と呼ばれています。福岡市中心部は空港に近いことから、天神でも指定容積率が800%と他の大都市と比較して制限がありました。現福岡市長は、以前市役所の屋上から天神の街を眺めていたときに高さがビシッとそろった事務所ビルの間から電波塔が伸びているのを見て「最近は飛行機の性能が上がっているので容積率を緩和しても大丈夫かもしれない」と気づかれたそうです。緩和については、高さは最大115m、容積率は最大1,400%までとされています。容積率の緩和には条件をつけており、より広い床面積と情報セキュリティ、耐震性能を有し、クリーンエネルギーによって環境にも配慮したビルが認定を受けることでより高い収益力を生むという良い循環ができています。新しくできたオフィスビルは月額賃料30,000円/坪という目線で貸し出されています。直近ではGoogleが国内3拠点目(他は六本木、渋谷)として天神ビッグバンによる再開発ビルの第一弾である天神ビジネスセンターに入居することが決まっており、今後の動向が期待されます。
⑩チームFUKUOKA
天神ビッグバン等とも関連して、福岡市では「チームFUKUOKA」という国際金融機能の誘致も行われています。金融関係を中心とした外資系企業を集めるために、天神ビッグバン等による高機能な事務所ビルが多く供給されることが待たれています。これが機能していけば福岡がアジアの中でも大きな存在感をはなつ都市となると予想できます。
8.まとめ
このように良い条件のそろった福岡市ですが、福岡県、九州全域に目を向けるとやはり高齢化社会の進行、人口減少に伴う衰退傾向が顕著です。福岡市が一人勝ちしているという見方もありますが、福岡が発展しなければ東京等への人口の流出は免れず、福岡には九州の最後の砦としての役割があるのではと考えています。大企業や国政にとってのリスクヘッジとしても、東海地震・南海トラフ地震等の災害が予測される太平洋側や東京の一極集中から、日本海側である福岡へさまざまな機能の一部を移転していくことが重要になると考えられているとも感じます。
《参考文献》
木下斉(2018)『福岡市が地方最強の都市になった理由』/株式会社PHP研究所
石丸修平(2020)『超成長都市「福岡」の秘密』/日本経済新聞出版社
福岡市ホームページ